この俺が幸せにして見せる!【短編/完結】

「俺は、カメリア嬢との婚約をここに宣言する!」

決まった……!
張り上げた爽やかな声、そしてその表情は完璧にどう見ても文武両道最強無敵王子様フェイスだ。鏡を見ながら俺は己のあまりの完璧さに感嘆の声を漏らしてしまった。
自室の鏡の前でこうしてカメリア嬢への婚約を宣言する練習は週に3回行っている。いつか来るその時の為に完璧に仕上げなくてはいけないからだ。
だがそれももうすぐ終わる。そう、パーティで兄上――アーサー第一王子がカメリア嬢へ婚約破棄をする時が迫っているのだ!

*

俺はこの国の第二王子、アルバート。
俺には物心ついた頃から前世の記憶とやらが断片的に残っていた。どのようにして生きたかまでは覚えていないが、唯一覚えていたのはとある『漫画』と呼ばれる物語の事だ。
前世の俺には妹がいて、その妹に借りた『悪役令嬢シリーズ』と呼ばれるジャンルの数ある漫画の中の一つが、今の俺の生きているこの世界なのだ。
当時の俺はたいして興味のないそのシリーズを暇つぶしに読んでいたが、その中で唯一気に入った漫画があった。作家が好きだったのもあるが、その漫画に描かれていた主人公の悪役令嬢カメリアというキャラが外見も性格もとてつもなく好みだったのである。

そして何を隠そうそのカメリアは今この世界に実在しており、なんと兄上の婚約者なのだ!

漫画の中では、美しく可憐なカメリアは転生してきた悪女に嵌められ(?)、兄上に婚約破棄を言い渡される。そして一族諸共辺境の地に送られるのだが、そこで様々な男性に求愛を受ける事になる。
幼い頃思い出したその記憶が未来の事であると気付き、そして成長する前に気付いた自分を褒め称えた。危うくカメリア嬢が悲惨な目に遭った後様々なイケメンに求愛されるところだった。
運の良い事に俺は第二王子でアーサーの弟という事もあり顔は完全にイケメンの類いだろう。悪役令嬢シリーズの漫画に存在していた「攻略対象」と呼ばれるなんか凄そうな枠にすら入れるレベルだといっても過言ではない。これならカメリア嬢を幸せにすることもできる。
だが、俺が気づいた時には既に兄上とカメリア嬢の婚約は決まっていた。こんなにも早くから決まっていた美しく可憐な婚約者を見限るなんて、と未来の兄上を恨みもした。
しかし俺はそこで挫ける男ではない。
カメリア嬢が城に顔を出す度に俺はカメリア嬢に声をかけ、兄上の目を盗んではカメリア嬢と二人きりになろうとした。そんな事を繰り返していれば、何故か兄上はだんだんとカメリアのそばを離れなくなった。それどころか、兄上自らカメリア嬢の屋敷に行くようになった。
こんなにも尽くしていたのに、この兄上はあんな悪女を未来では選ぶのだ。本当に馬鹿だ。
俺は兄上がカメリア嬢の屋敷に行く時には馬車に同乗できるよう機会を見計らうようにした。迷惑そうな兄上の顔を見ながら「フン、未来の俺の嫁に会って何が悪い」と内心では思いつつ、「兄上申し訳ありません、僕もカメリア様と会話したくて……」なんて可愛こぶったりもしたものだ。

そんなこんながもう17年も続いた。18の兄上はそろそろ結婚の時期だ。相変わらず兄上は俺に「アルバート、君は可愛い俺の弟だよ。でも、そろそろカメリアの事は諦めてくれないかな? 諦めてくれないと俺もそれ相応の対処をしなきゃいけなくなるからね」とかなんとか言ってくるが、それももう終わりだ。
そう、今年はあの漫画の年。
あの悪女が兄上を誑かす時が来たのだ!

「ふ……ふふふ……ふはーはっはっはっ!!!明日の王国祭りで俺はついにっ!宿願を果たすのだっ!!!」
「でーんか、悪そうな声が外に丸聞こえですよ」

高笑いしてるところに、窓から聞き慣れた声が聞こえてくる。その声の方向へとため息を吐きながら視線を向ける。

「悪そうとはなんだ、ジャック。未来のカメリア嬢を幸せにする男に対して失礼だぞ」
「はいはい、すみませんでしたっと」

窓から入ってきたジャック――黒髪短髪の盗賊のような格好をした男は、窓枠から降りて机の上にあったリンゴを取り椅子に座る。
自室のように過ごしているが、一応ここは第二王子である俺専用の部屋だ。まぁジャックは俺専属の特別な従者なので許すのだが。

ジャックは漫画の中でカメリア嬢に求愛する男性の一人だった男だ。
作中では孤児で幼い頃から盗賊や闇稼業を生業として生きており、偶然助けられたカメリア嬢に恋をしてしまう。そして大人になってカメリア嬢暗殺を命じられるが、その命を破ってカメリア嬢を救う選択をする男だ。
作中でカメリア嬢が誰を選ぶかというのは、その答えを知る前に前世の俺は死んでしまったのか記憶にない。だが、前世の俺はジャックが一番いい奴だと思っていた。顔もイケメン、自分の意志や信念を曲げずカメリア嬢を守るシーンは胸が熱くなる展開だった。
そこで、俺はこの世界のジャックにも情けをかける事にした。
万が一カメリア嬢がジャックを助けてしまえば、ジャックはこの先失恋してしまう。なぜならカメリア嬢は俺と結婚するからだ。

ならば幼いジャックの危機に駆けつけるのは――そう、この俺だ。

仕事を失敗し、街の裏路地で怪我を負っていたジャック。
この日は本来はカメリア嬢は街にお忍びに出るはずだったが、俺はこの日だけはどうしてもと兄上をカメリア嬢の元へ向かわせた。そしてこっそり城を抜け出し路地裏を探し回った。
すぐ見つけられると思ったが、城下街にあまり出る事を許されない俺には土地勘がなく、やっと見つけた時にはもう日が翳っていた。
路地裏で血を流して目を閉じているジャックを見た時は死なせてしまったかと思い焦りに焦ったものだ。
だがジャックは話しかければ目を開け、訝しげに俺を警戒した。それで安心して、俺はジャックに「手当てをしにきた」とだけ伝えすぐに手当てを始めたのだ。
持ってきていた応急処置用の道具でなんとかしたものの、それ以上は町医者に任せなければならない。己と同じぐらいの体格のジャックを背負い、俺は町医者へと走った。
ジャックは小さな声で「あんたなんなんだ……?」とか「その紋章……」とか言ってた気もするが、当時の俺は必死すぎてそれどころではない。
町医者に駆け込み、持ってきていた金を渡しその場を離れる。
これでもう大丈夫だろう。そう思い俺はホッと一息吐きその場を離れたものだ。

しかし、その半年後に王宮に不審者が侵入し、俺は再びジャックと対面する事になる。
「あの時の礼をと思いまして」と言いつつ手にナイフを持つジャックを見て俺は心底震え上がった。助けたのに殺されるのか?! とめちゃくちゃ焦った。
が、臨機応変な俺はジャックに「あぁ、あの時の路地裏の子か。怪我はもう大丈夫なのか? ……なぁ、お前の雇い主が誰だか知らないが、そいつより俺の方が必ずお前のいい主になれる。第二王子の専属にならないか」と、余裕を持ってめちゃくちゃいい労働環境をちらつかせ勧誘した。
この国に限れば俺は最強の雇い主だ。なんせ王子だし。王の子だし。
ジャックは俺の勧誘を聞いて目をパチパチさせた後、笑って「怪しいガキの命を救ったと思えば、今度はその怪しいガキを王族の従者に勧誘とは。恐れ入りました、殿下。このナイフは護衛用です、失礼しました。――貴方に救われた命。貴方が望むのであれば喜んで貴方の従者となりましょう」とかなんとか言って従者になってくれたのだ。
本当にラッキーだった。

*

「それで? そろそろ殿下のいう悪女とやらが現れるんですか?」

りんごを齧りながら尋ねてくるジャックに昔のあの可愛い従者みたいな面影はない。漫画に出てきたイケメン盗賊な雰囲気のまんま育った。
ジャックの得意分野を活かそうと思い、ジャックには国内情勢や市政状況やらの情報収集を担ってもらっている。
月一でカメリア嬢周辺の事も調べて貰うために、俺は幼い頃ジャックにだけ前世の記憶云々を伝えている。漫画でのジャックがカメリア嬢のことを好きになるくだりは可哀想だから教えていないが。過ぎた話はどうしようもないしな!
ジャックは最初は話半分に聞いていたが、時が経つともうそろそろ信じてくれたのか、それとも俺の妄言だと思って諦めているのか、今は普通に受け止めてくれている。
それでこそ俺の従者だ。

「あぁ、明日の王国祭りで街に降りた兄上と悪女が出会うんだ。悪女は転生主人公で兄上狙いで、兄上はその悪女の天真爛漫な姿に惹かれてしまう……」
「でも明日アーサー殿下はカメリア様とご一緒に祭りを回られるそうですけど」
「多分人混みに紛れてなんかはぐれるんだろう」
「王族が人混みに巻き込まれて婚約者様を見失うのはなかなか一大事ですね〜」
「大丈夫だ、カメリアの側には俺が必ずいるからな!」
「よっ、男前!」

昔から変わらない笑い方でジャックが笑う。いつもは馬鹿にしてるだろう、とムッとなるのだが今日は許してやる。なんたって、明日は俺の物語の始まりでもあるのだからな……!

「という事で、明日はお前に陰から護衛してもらう」
「だと思って今日戻れるよう頑張ってきたんですよ、仕事。門は閉まっちゃってましたが、こうして窓開けてくれてたんで入れました」
「お前がいつも窓から入ってくるから開けてるんだ」
「俺専用ってのもいいもんですね」

嬉しそうに笑うジャックに溜息が出る。もし刺客がいて窓から入られたら俺は瞬殺だ。
だがまぁジャックが入られなくなるのは困るし、この窓にジャックがなにも仕掛けをしてないわけがない。自分以外が外から開けたら何かあるとか多分あるんだろう。この窓は掃除もジャックがしてくれているからきっとそうだ。

「明日は朝早いんですか?」
「兄上とカメリア嬢が合流するときに自然に合流する形で待機する予定だから、かなり早めだな。ジャック、今日はここで寝るか?」
「んー……甘い誘いですけど、やめときます」
「最近部屋に泊まらなくなったな、別に俺は構わないぞ? 俺はお前なら無礼もなんでも許すって昔から言ってるだろ」

昔はよくジャックは俺の部屋で寝て起きていた。
というのも、一度俺は刺客に襲われかなり危険な目に遭ったことがある。その時に護衛しきれなかったから、とジャックは仕事をこなしている時以外はなるべく俺の側にいてくれるようになった。
今は俺も剣術もかなりの腕前だし、肉体もかなりのイケメンに仕上がった。なのでジャックが側にいなくてもいいのだが、少し寂しい気はする。

「うーん、でも殿下明日朝からバリバリ気合入れるつもりでしょ。なんならもう専属メイドとかも呼ぶ用意してるんですよね」
「あぁ。なんだ? メイドと会いたくないのか? もしかしてお前俺の専属メイドたちに手を……」
「出してませんよ、ずっと殿下の仕事受けて護衛してんのに、女性に手を出す暇あると思います?」
「お前ならそんな暇作るの容易いだろ」
「そりゃまぁ暇を作るだけなら容易いですが……あぁもう兎に角、俺は今日は部屋に戻ります。朝から同じ部屋にいたらメイド長にまたなんて言われるか……」
「……? わかった。だが朝はちゃんと顔を出せよ」
「わかってますよ、それじゃほらあんたもベッドに入る。なんでこんな時間まで起きてるんだか……」
「それはお前が遅いのが悪い」

椅子から立ち上がり俺をしっしっと手ではらう仕草に若干腹が立つ。
確かに何も言わずともジャックは明日の朝俺のところに来ただろうが、ジャックがいないと明日の祭りも楽しくない。ちゃんと俺の物語の始まりにはいてほしい。なんせ、俺にとっちゃもう幼馴染のようなかけがえのない存在なのだから。
俺の口答えを聞いてジャックは少し呆れたように笑う。
そして、俺の手を掴んでそのままベッドへと連れていかれ、手慣れた手つきでベッドに入れられる。

「ピクニック前の子供ですか、あんたは」
「お前は本当失礼だな、仮にも主に向かって」
「はいはい。それじゃ俺は部屋に戻りますよ」
「まったく……まぁいい。おやすみ、ジャック」
「おやすみなさい、殿下」

最後にやけに嬉しそうに笑って、ジャックは入ってきた窓からまたするりと出ていく。そして窓がパタンと静かに閉められる。
静まり返った部屋で、俺は明日の計画を考えながらスヤスヤと眠りについたのだった。

*

「……ここはどこだ?」

月が沈み日は登り、国全体の祭りが始まり城下町は綺麗に飾り付けられていた。
俺は早朝からメイド達に美しく飾り付けられ、鏡で何度も己の容姿を確かめ、そして兄上とカメリア嬢と合流した……筈だった。
合流したのだが、兄上とカメリア嬢は厳重な警備の元城下町の祭りを少し離れた場所で二人仲良く談笑しながら見守っており、これでは兄上が離れるビジョンが見えない。
一体どういうことなのかわからない。この非常事態を何とかすべく一度頭を冷やす為に警備を潜り抜け、フラフラしていたら――迷った。
それはもう、漫画の中の兄上のように。

「これは……まさか……俺が兄上のように誑かされるのか……?!」
「独り言がデカ過ぎて周りに迷惑ですよ」

いつの間にか姿を見せていたジャックに言われ、俺は慌てて口を塞ぐ。
確かにこれでは目立ってしまう。服装もだ。

「ジャック、何か変装できる服はあるか?」
「変装? 今日はカメリア様に会うからって気合入れて仕立ててもらってるのにどうしたんです」
「あの警備でカメリア嬢と兄上がはぐれるとお前は思うか?」
「まずあり得ないでしょうね。アーサー様ずっとカメリア様の手を握ってらっしゃいますし」
「なに?! クッ、兄上め……。いや、今はそうじゃない。これじゃ俺の知ってる漫画通りにならないんだ。それで、一度頭を冷やすために歩きたくてな。この格好は目立つだろう?」
「まぁそうですね。それなら丁度そこの角が仕立て屋なんで買ってきますよ」
「あぁ頼む。なるべく普通なのをな」
「殿下はここを動かないでくださいよ」
「わかっている」

ジャックが仕立て屋に入るのを見届け、俺はもう一度漫画の内容を整理する。
漫画では、兄上が無気力な護衛とどうでもいい婚約者ににうんざりして一人で街を散策し始める。そこでとある女性にぶつかってしまい、慌てて助ける。それがその悪女で――

「キャッ」
「あぁ、すまない! 怪我はないですか、お嬢さん」
「……はい。ありがとうございま……あれ……?」

そう、こんな風にぶつかって、こういう淡い青い目を持つ可愛い顔の綺麗な金髪の悪女に兄上は――

「あ」
「あれ? なんでアーサー王子じゃないの……?」

今、その悪女が目の前に――?!

「お、俺は誑かされんぞ!! 悪女め!!」
「はい?! って、え?! あく……悪女?!」
「貴様、兄上を誑かそうとしているだろう! カメリア嬢を泣かせるのは許さん! いや待て、だが悪女と出会わないとそもそもカメリア嬢は婚約破棄されなくて……ん? あれ?」
「兄上? 貴方もしかしてアーサー王子の弟……? 確かに顔は似ているわね……って待って、どうしてカメリア様の事を! 貴方ももしかして転生者なの? 婚約破棄って何?! 私、アサカメ固定だからそんなこと絶対させないわよ?! 冷え切った二人の仲を取り持とうと……」
「てんせい……? いや、転生者設定は貴様だけの特殊設定だろう! 俺はこの国の第二お――」
「ストーーップ! 何大声で身分明かそうとしてるんですかあんたは!」

モガモガと口を後ろから塞がれ、後ろでゼーハーとジャックの息切れが聞こえる。どうやらかなり慌てて走ってきたらしい。普段こんな距離で息を切らす事はないから、よほど慌てさせてしまったのだろう。

「ぷはっ、悪い、ジャック!」
「いえ俺も突然口塞いじゃったんで……大丈夫ですか」
「あぁ平気だ――」
「ジャックだ……えっ、待って? なんでアーサー王子の弟とジャックが? 公式で接点なんてないわよね? カメリア様とジャックならまだしも……」

目の前で悪女……いや、少女は戸惑ったようにぶつぶつ言っている。
そんな彼女を見てジャックが一瞬警戒するように目を細めたのに気付き、俺は慌てて説明する。

「ジャック! これが言っていた」
「悪女ですか」
「悪女悪女ってさっきから貴方達失礼です! 私にはマーガレットという名があります。それより、ジャック……様、貴方にカメリア様は渡しません! たとえ貴方が幼い頃カメリア様に救われ恋をしていたとしても、カメリア様はアーサー王子と結ばれるべきなのです!!断固として!!」

マーガレットと名乗った女性は、ビシッとジャックを指差し宣言する。……が、ジャックは目をパチパチとさせて首を少し傾げる。
当たり前だ。なぜなら、このジャックはカメリア嬢に助けられていないのだ。俺が助けたのだ。

「俺がカメリア様に救われた記憶はないですが。人違いでは? そもそもなんで俺の名前知ってるんです」
「え? そんな筈ないわ、貴方幼い頃任務に失敗してかなり深い怪我をしたはずよ。その時この街の路地裏で貴方をカメリア様が――」
「や、それはこちらのアルバート殿下が助けてくれました。というか何でそんな事を? ……あんた何者?」

ジャックの指先が直ぐにナイフを取れる位置に行ったことにまたもや気づき、俺は慌てて二人の間に入る。

「マーガレット嬢といったか、貴女の言ってる事は正しい。本来はジャックはカメリア嬢に救われる筈だった」
「貴方が助けたの? 何のために……ハッ、もしかして貴方もアサカメを……」
「カメリア嬢と結婚するのは俺だからな、ジャックには申し訳ないが、ジャックにはカメリア嬢に恋をしてほしくなかった。だから俺が助けた」

――本当はジャックに言いたくなかった。俺はジャックの恋を邪魔してしまったのだから。
ジャックが今どんな顔で俺を見ているのか見たくなくて、俺は少し顔を背ける。
そんな俺の説明を聞き、マーガレット嬢は暫くポカンとした後、少し苛立った表情を浮かべた。

「貴方がカメリア様と結婚する……? どういうことなの? お二人はやはり仲が悪いの? あぁどうしよう! ここのフラグがダメならお二人に近づくにはどうしたら……貴方弟よね?! 責任取りなさいよ!」
「マーガレット様、落ち着いてもらえますか。仮にもこの方一応第二王子なので、あまり目につくと危険です」

ジャックがマーガレットと俺の間に入り、興奮した彼女を小声で落ち着かせる。――いや待てなんだ仮にも一応って! 俺はれっきとした第二王子だ!
そんな突っ込みが伝わったのか、ジャックがこちらを振り向く。そして俺の全身を一度上から下まで見て呆れたように笑ってから、大きくため息を吐く。

「殿下、とりあえずその服装は目立つんで着替えましょうか」

*

「ア、アーサー王子とカメリア様が手を繋いでいらっしゃる……!!」
「あ、兄上とカメリア嬢が手を繋いでいる……!!」

着替えた俺とマーガレットを連れてジャックが案内したのは、広場にいる兄上とカメリア嬢が見える少し離れた場所だ。
屋台の並ぶ広場で二人は手を繋いで歩いている。手を繋いでいる。手を。それもお互い二人きりの時間ではなく、こうして公の場でだ。

「マーガレット様、先程の無礼をお許しください。ですがあれを見てお分かり頂けたかと。あのお二人は幸せですよ」
「まさか、私が介入するまでもないなんて……二人が治める国にこれから住めるのね……ブロマイドたくさん集めなきゃ……」

何やらマーガレット嬢がまたわからないことを言っているが、恐らく転生前の言葉なのだろう。
というか、それよりも。

「待て、君は兄上に恋をして兄上をカメリア嬢から奪うのでは?」

そう、俺の読んだ漫画の記憶ではそうだった。
マーガレットという名前ではなかった気がするが、とにかく彼女と同じ見た目の悪女が兄上を奪うのだ。元より、漫画では兄上とカメリア嬢の間には恋などなかったのだが。

「そうね、本当の話はそうだったわ。でも私はそれが気に食わなくて。だってカメリア様ってめちゃくちゃいい子だし綺麗だし優しいし可愛いし格好いいし! アーサー王子は正直なんでこんな女にだまされたの? ってムカついたけど、でも顔が好きだしあと根は普通に良い人だったから、冷めた時期に何かきっかけがあれば絶対幸せな2人になれてたと私はずっと思ってたのよ。マイナーCPだったけど二次創作めっちゃかいたし、ブクマ数かなりついたし、やっぱり皆好きなんじゃん?!って感じじゃん? でも創作しきる前に私不運にも死んで、でも転生して、転生したのは最高だけど自分があのクソ女だって気付いてマジで信じられなくて! でも逆に私が二人の仲をとり持てばいいのでは?! って気付いちゃって」
「情報量が多すぎる、止まってくれマーガレット嬢」
「殿下並みにすごいのきましたね」

マーガレット嬢の話をまとめると、マーガレット嬢も俺と同じく漫画を読んでいた人で、彼女は兄上とカメリア嬢の二人が幸せになってほしいと思っているらしい。
というかむしろこの二人じゃないとダメらしい。
漫画で冷め切っていた二人を仲良くさせようと、まずは近づく為に兄上と出会うシーンに行ったら何故か俺がいた、と。

「でも幸せなら良かった、私これから自CP公式の世界で生きられるんだ……」
「いや待て、なら俺はどうなる? 兄上とカメリア嬢は確かに仲慎ましいが」
「私固定なのよね。というかあの二人の間を仲良くしたのは貴方じゃないの?」
「そんな筈はない!俺はカメリア嬢を幸せにする為猛アタックしてきたが」
「カメリア様は漫画では誰にも愛されていなかったのよね。……もしかして、第二王子である貴方が猛アタックして、アーサー王子の独占欲が……? 今まで気にしていなかったカメリア様が気になるように……? それで恋心が芽生えたのかしら……?! 貴方最高のあてうま……は失礼ね、兎に角最高ですアル様!」

カメリア嬢の言おうとしている事は遺憾ながら何となくわかる。俺も馬鹿ではない。
俺はどうやら二人を幸せにしてしまっていたらしい。そんな筈は……と思うが、確かに俺がカメリア嬢にアピールし始めてから兄上は露骨に不満げになった。
なんなら最近はなんか見せつけられてる感がある気もする。というか二人が話してる時はカメリア嬢も兄上しか見えてない感がある。この手の繋ぎもまさかそういうことなのか、兄上。

「……ジャック」
「はい」
「俺はどうやら自分のせいで失恋していたようだ……!」
「……やっと気付けましたね」
「くっ」

どこか愉快そうに言葉を返すジャックに悔しくなる。この男は絶対に前から知っていた。知っていてなお応援してくれていたのか、はたまた面白がって見ていたのか。この男ならどちらもな気がする。
そんな風に俺たちが会話していると、マーガレットが少し不思議そうに俺たちを見ていることに気付いた。

「でも、ジャックが第二王子様の従者になるなんて二次創作でも思いつかなかったというか、どうして従者に?」
「殿下が俺を救ってくれたので、救われた命ごと殿下に捧げてるだけですよ」
「でも、貴方漫画の本編通りに行けばカメリア様と結婚するのよ」
「なに?! そうなのか? 俺の記憶にはそこまでは無かったからな……。まぁ確かにジャックはあのイケメン達の中でもずば抜けて格好いいからな」
「そうそう。ジャックとカメリア様が結ばれるのは不本意ながら漫画としては一番いい物語だったなぁと思ってるのよ。メインヒーローがまさか従者になってるだなんて」

マーガレットの言葉を聞いて、少し胸が痛くなる。
ジャックとカメリア嬢が幸せになるのが本来だったなら、俺はジャックからその選択肢を奪ったのだ。
勿論俺はカメリア嬢と結婚していたら必ず幸せにしていた。
だが、ジャックもきっとカメリア嬢を幸せにした筈だ。

「というか、救われてなくても関わる機会があったなら貴方カメリア様に恋しちゃってない? 大丈夫よね?」

マーガレットがハッと気付いたようにジャックを見る。
その言葉に俺もハッとなる。確かにそうだ。俺は今まで自分の恋のことしか考えていなかったが、カメリア嬢の周りの事を調べさせていたのだ、カメリア嬢の事を好きになっていてもおかしくはない。
もしかして俺は知らず知らずのうちにジャックを傷つけてしまっていたのか――?
ジャックの方をパッと見れば、ジャックも俺を見ていたのかお互い目が合う。ジャックはいつもの様に目を細めて微笑む。なんだかその笑みはいつもより優しい気がする。気のせいだろうか?

「ないですよ。その漫画とやらの俺は救われて恋したんでしょう? 俺はカメリア様には救われてないので」
「あぁよかった……。……ん? 待って、それじゃ貴方を救った――」

マーガレット嬢が何かを言いかけて、やめる。
ジャックが己の口元でシーッと指を立てていたからだ。
その意図が分からず、俺はジャックを訝しげに見る。

「ジャック、本当にカメリア嬢に恋していないのか? 兄上に告げ口しないぞ俺は」
「してないですよ、信じてください」
「信じてはいるが……その、お前には言ってなかったからな。俺がお前の恋路を邪魔した事を」
「邪魔も何も、殿下は汗だくで泣きながら俺を助けてくれたじゃないですか」
「見つけるのが遅れてお前が死んでいるのかと思って焦りはしたさ。だが、泣いてはいなかったがな、尾鰭をつけるのはやめろ」
「はいはい、俺の思い違いって事でいいですよ」

笑うジャックに不満な顔をすれば、愉快そうに笑う。その顔には嘘偽りなんてない。長年一緒にいたのだ、表情ぐらいわかる。
俺たちが言い合っていると、マーガレットが何かを考え込み始めた。そしてジャックの方を見て満遍の笑みを浮かべた。

「そう、そうなのね! あぁこれでじゃぁ完璧……ううん、ご結婚までは他のカメリア様に恋する可能性があった男達は警戒しなきゃね! ジャック、私は貴方の恋は全力で応援するわよ!」

マーガレット嬢のよくわからない嬉々とした言葉。その最後の言葉を聞いて俺は首を傾げる。
ジャックが恋。
そんな話は聞いたことがない。カメリア嬢に恋していないなら一体誰を? メイドにも手を出していない、この男が出先で女性に手を出す事はまずあり得ない。
マーガレット嬢の思い違いではないか、と問おうとしたところでジャックが頷いた。

「ありがとうございます、マーガレット様」
「え? 待て、ジャックお前いつの間に恋なんてしていたんだ? 俺は何も聞いていないぞ」
「そりゃ殿下には言ってないですからね」
「誰とだ? やはりメイドの誰かか? もう付き合っているのか?」
「だから、メイドに手出したらメイド長に殺されますって。それに、思いを伝える気はありません――」
「は?! ダメダメダメダメ!! 私ハピエンじゃないとダメなのよ!! 応援するからには伝えてもらうわよ?!」
「いや、マーガレット様……身分ってもんがですね……」
「身分って……私は漫画では王族と結婚した平民の女よ? この世界はそういう突拍子もないことも許されると思うのだけれど? そもそも今こうして私が第二王子様とその従者の方と普通に話していて許されてる緩い世界よ?」

普通なら不敬罪で死んでるわね、と物騒な事を言うマーガレット嬢。
しかし、確かに言われてみればそうだ。王族と平民の結婚が許されるのはなかなかのことだ。というか、ジャックの相手は身分が高いのか?

「ジャック、相手の身分がどんなに高くても大丈夫だ。お前は俺の従者だ、他の奴らが何と言おうと俺はお前の味方だ」
「本当ですか?」
「俺がお前に嘘をついたことがあったか?」
「……そういうところですよ、俺が弱いのは」

はぁ、とため息を吐いてジャックは笑う。そしてマーガレット嬢を見て、肩を竦める。

「こういうことなので、伝えるのは無理そうです。潔く諦めてください」
「……私は納得できないわ。そうだ、ねぇアルバート様、失恋したのなら私にしませんか?」
「「は?」」

マーガレット嬢の突然の発言に俺とジャックの声がハモる。
何を突然言い出すのか。
いやまぁ突然言わなくてもマーガレット嬢の言う事はかなり難解でわからないのだが――。

「よく考えたら、この世界での私の身の振り方考えてなかったな、と。それならアサカメを一番近くで見れるアルバート様と結婚したら最強でしょう?」
「今さっき貴女応援するって言いましたよね?」
「女心は秋模様、あ、この世界ではこの言葉伝わらないかしら……兎に角、アルバート様に聞いてるんです! アルバート様、私なら貴方の言ってる意味もわかるし漫画の話もできます。今後お二人がどうなるか二人で見守りませんか?」

マーガレットはどこか本気を滲ませて俺を見つめてくる。
冗談が大半だとは分かっていつつも、これは俺も本気を滲ませて答えなくてはいけないだろう。

「俺はカメリア嬢と結婚することしか考えていなかったからな。婚約も断り続けてきたから周りにも諦められてるし、身分違いの結婚も宣言すれば普通に受け入れてもらえるだろう。……だが、俺がカメリア嬢を幸せにするつもりだったのは本心だ。だから、そうすぐには決められないが――」
「駄目だ」

俺が真面目にマーガレットにどう断るか考えながら話していると、横からジャックに腕を掴まれそのままジャックの方に引き寄せられる。
ジャックは今まで見たことないほど真面目な顔で俺を見ていて、その表情に何故か少し胸が跳ねる。

「マーガレット様、貴女が冗談半分で言ってるのはわかってますけど、アルバートはあげません」

言っている言葉の意味はなんだかよくわからないが、今ジャックに久しぶりに名前を呼ばれた。それだけだが、それがかなり嬉しい。
ジャックは普段俺を殿下やらあんたやら呼ぶが、真剣な時にはアルバート様と呼ぶ。
――が、よくよく考えたら今のは呼び捨てだ。呼び捨てで呼ばれるのはひょっとすると初めてかもしれない。

「ジャック」
「なんですか、殿下」
「いや……もう一回呼び捨てで呼んでくれないか?」
「…………ア、ルバート?」

俺の突拍子のないリクエストを聞いてキョトンとしてから、少しぎこちなくジャックが呼ぶものだから、何となくおかしくなり声を抑えて笑う。
普段飄々としてるのに、何故俺の名前を呼ぶという簡単なことだけでこんなにぎこちなくなるんだ? これはもしや、思わぬところでジャックの弱みを握れたかもしれない。

「――……うーん、これもう両思いじゃ……? 私余計なことした? ……まぁいっか。アルバート様、冗談失礼いたしました。少し興奮しすぎてしまったようで」

マーガレットが頭を下げ、俺はいやいやと首を振る。別にいい、それに一番そばで見たいと言うのはなんとなく本音なのだろうと思ったし。
それより、さっき笑ってからジャックの顔が少し赤いのが気になる。普段顔色を出さない男なのに、何故今照れているのか。
わからない。
全くもってわからない。

「あ! お二人がもう広場から移動してる……私、二人をもっと満喫してきます。お二人にはご迷惑をおかけしました。もう会うことは……いえ、多分きっとまた会うと思います、記憶持ち同士そんな気がします。その時はぜひまたこうして話す事を許していただければ幸いです」
「あぁ、勿論。なんなら城に遊びにきてくれても――」
「駄目です。マーガレット嬢のところにお忍びも駄目ですよ。変に噂が立ちますからね。街中でたまたぶつかった、とかなら構いませんが」
「だそうだ」
「ふふ、そうね。それならまた街でぶつかりましょう。第一声は悪女じゃなくてマーガレットと呼んでくださいませ、殿下。 ……それでは、素敵な悪役令嬢ライフを!」

最後によくわからない事を言ってマーガレットは足速に広場を抜けていく。
その先は兄上とカメリア嬢が視察に行っている場所のようで、他にも王族を見ようとする国民達が大勢いる。

「……なかなか怒涛の1日だったな」
「そうですね。まだ祭りは始まったばかりですが」
「俺の物語は始まる前に終わったがな……」
「……元気出してください、ほら屋台で何か食べます?」
「そうだな」

ジャックがポンポンと俺の背中を慰めるように叩いてくれて、俺たちは民衆から少し離れた木陰に移動する。
そして、改めて祭りの様子を見渡す。
綺麗に飾り付けられた家屋に、色々なものが売られている屋台。
そして、楽しそうに笑い祭りを満喫する民衆。
ぼんやりとそれらを見ていると、いつの間に買いにいったのかジャックに屋台の菓子を渡される。それを手に取り、横にいるジャックに目を向ける。ジャックはいつもと変わらず俺のそばにいてくれている。
もしあの時カメリア嬢がジャックを助けていたら、こうして今ここにジャックはいなかったのだ。
――なんだかそれを思うと心がチクリとする。

「なぁジャック」
「はいはい、なんですか」
「俺の物語は始まらなかったが、俺はこうしてお前と祭りを見れて嬉しい」
「俺も殿下と見れて嬉しいですよ」
「これからもずっと二人でこうして祭りを見たいよな」
「……はい?」
「え? 見たくないか?」

俺もですよ、と答えてくれるも思っていたばかりに、俺はジャックの方を慌てて見る。
ジャックは少し考える素振りを見せた後、ため息を吐いて呆れたように笑う。

「いつかは殿下も結婚なさってその方と見ると思いますよ。その時俺は多分陰で見守ってますし」
「俺にもう縁談は来ないだろう、カメリア嬢と結婚するとばかり思っていたから今までのも全て無理やり断っているからな」
「それでも第二王子なんですから、縁談は望めば来ますよ」
「望まない。望まなくとも来たとしても、結婚しなければいいだろう。そうだ、そうすればお前とずっと一緒にいられるな」
「な……」

俺がいい事を思いついたと思って言えば、ジャックが驚いた顔をする。
今日はジャックのあまり見た事ない顔ばかり見ている気がする。
それもなんだか気分が良い理由の一つなんだろう。
俺はそのまま思った事を口にしていく。

「お前も――……いや、恋してるんだったか。それならその恋が実るまでは俺と祭りを見よう。俺一人じゃ物語が始まらなかったのを思い出して悲しいからな。お前がいれば全部良い思い出になるんだ、俺は。だから祭り以外も全部一緒に……」

できればずっと一緒にこうして祭りも他の色んなことも、全部全部そばにいてほしい。
今日みたいにアクシデントがあっても、ジャックがそばにいればそれでいい。

それは流石に我儘だな、と言葉を噤んだ時、不意にジャックに引き寄せられた。
――元盗賊さながら掠め取る様に、ジャックの唇が俺の唇の体温を奪って離れていく。ほんの一瞬だった気もするし、長かった気もする。
今されたものがキスだと理解して、俺は目を瞬く。

「……それなら、恋が実っても一緒にいてほしいんですが」

今までにない程の至近距離でジャックが囁く様に呟く。
その言葉でようやくさっきまでのマーガレット嬢とジャックの会話に意味が色付いていく。
なるほど、俺が救ったから。
――いや、俺が救ってしまったから?

「俺が……」
「言っときますけど。あんたが俺を救ったから恋をした、というわけじゃないですよ。確かに主としては認めました。でも、それからずっと……ずっと一緒にいたんだ。……その年月の中で俺はアルバートに恋をしたんだ」

真剣な声色なのにどこか昔の危なげな雰囲気で喋る姿に、思わず俺はジャックの腕を掴む。
じゃないと、どこかに消えていきそうだったからだ。
路地裏を探して走り回らなきゃいけなくなったら最悪だ。また泣いちまう。

「……俺はずっと幼い頃から、カメリア嬢を幸せにしたい!って事しか考えてなかった。それが当たり前だと思っていた。……肝心の自分の幸せは考えてなかったんだ。マーガレットが俺に結婚を言い出した時、それに気付いてな。ジャック、俺が俺の幸せを見つける為にそばにいてほしい。お前がそばにいてくれるとわかる気がする」

ジャックが逃げない様、少し慌て気味に言ってしまった。
この答えじゃ駄目だろうか。
この答えじゃ不満だろうか。
でも、そばにいてほしい。
自分でもよくわからない感情に振り回されていると、ジャックが俺の手を握ってくれた。

「……本当、そういうところ好きですよ。いいです、どこまででも付き合いますよ。言ってしまったんですし、俺も覚悟を決めてあんたを幸せにします」

――だから、覚悟してくださいね。

そう言ってジャックは今まで見た中で一番格好いい顔をして笑う。
そして今度は少し唇を喰むようにキスされてまた唇の熱を奪われる。いや、今のはお互いの熱が広がったのか。その後も何度か唇が奪われる。
――いや待て、いくら木陰だからといって、ここは往来の道だぞ?
どうやら覚悟を決めたこの男はいつもの飄々とした態度で俺を愛でるつもりらしい。
それも容赦なく。
なかなかにそれは……考えただけでどうしていいかわからなくなる。微妙に顔が熱い気がするが、気のせいだきっと。
ジャックが俺の顔を見て嬉しそうに「でーんか、もしかしてキス好きなんですか?」って聞いてくる。
キスが好きそうな顔ってどんな顔だ? というかそんな顔してない、してない筈だ!

*

とある婚約が、練習した甲斐のある爽やかな声と文武両道最強無敵王子様フェイスから宣言されるパーティまで、あともうすこし――。