転生忍は追忍に追われています!【短編/未完】 - 1/2

 

「南、なぜ里を裏切った――……!」
満ちた月の光の下、足音も無く駆ける森の中で聴き慣れた低い声が鼓膜を揺らす。大方の追手は撒いた。なんせ、里の若い衆の中でも一際俊敏で早足の俺は、韋駄天の名さえお館様に頂いたことがあった。その俊敏さと努力の甲斐があって里の若い衆で二番に信頼を得ていたのだ。
だが、その信頼故に俺はただ足を速める。追ってきている唯一の一番は、過去は友だったかもしれないが今は追手でしかない。なぜこんなことになってしまったのか。なぜ俺はこんなにも美しい月光を穏やかに見ていられないのか。もう今となっては何もかもが遅い。
もう幾日も木々の隙間を縫い、追手を撒き続け、この先の地理が一体どうなっているのか把握できない場所にまで来ている。それでも後ろの男は諦めない。流石は二番の俺の上にいる男だと賞賛の声を上げたいぐらいだ。だが、声を上げたところで抜け忍に待っているのは死のみである。なぜと後ろの男は問うが、言い訳を述べても真実を述べてもどちらとて待っているのは同じ。違うのは、真実を述べれば後ろの男の命も危ないことだろうか。それならばこの身一つで美しく散りたいものだが、後ろの男にこの命を捧げるにはあまりにも悔しい。
幼い頃から何度も同じ修行に立ち会ったが、一度も勝てたことが無かった。俊敏さと努力だけでは勝てない天性の才能を持った男だった。里の中でも派閥が違ったため、兄弟のように、とまではいかなかったがそれでも好敵手として羨望し、憧れ、信頼していた。そんな男の手で死ぬのは本望かもしれない。だがきっとこの男は死ぬ前に「なぜ」を問い詰めるだろう。そういう男なのだ。言い訳など通じない。
月光が雲に隠れ、目の前の木々に影が掛かる。枝をつま先で弾き、飛び出た先の枝をまた弾く。後ろの影が先ほどよりも近い気がして、その交差する足取りを速めたところで、数歩先の着地点を目に映したときにはもう既に俺は宙に浮いていた。
「あ」
暗闇に紛れた森は途中で分断され、急に途切れた地面の遥か下には暗闇が満ちている。そうか、息がし辛いと思っていたがまさかここまで上にいたとは。
宙に浮き制御ができなくなる寸前で体をくるりと返し、最期に眼に映すものはせめて美しい夜空でありたいと願う。
雲隠れしていた満月が顔を見せ、その美しい光を照らす。
「南――!!」
その月光を隠すように、影が視界に映る。あぁ、なんでお前迄宙に囚われてしまうのだ。消えた俺の背を見て、ここが崖であるとお前にはわかっただろう。なのに、お前は飛び出したのか。それでも一番か、この戯けが。
「――戯けが!」
そう俺が叫んだ声が先か、それとも落下した俺の身体に届いた熱と痛みが先か。それを知る事はもうできない。
――もう、二度と。