荒神探偵-前日譚-【短編?/BL未満】 - 6/6

#五章【吉住探偵事務所】

 浅間かずみを含んだ町の住人数名を巻き込んだ崩落事故が起こったのは、その翌日だった。小降りだったが続いていた雨のせいで地盤が緩んで起きたらしく、その時運悪くなぜか祠近くにいた十数名が命を落とした。その顛末をテレビ画面越しに佐木那町からうんと離れた都会の喧騒が響くビルの一室で、俊介は見ていた。
 命を落とした人物は全員信者になってしまったものたちで、それから。
 何故か死者の中に俊介の名前もあったのだ。

「俺、生きてますか吉住さん」
「生きてなかったら俺には見えてねぇよ。まぁ大方、腹がいっぱいになったこいつが残してきたんだろうな。」
「え⁉ いやそれ大丈夫なんですか」
「ただの肉塊だ。だが、そうだな。浅間かずみに助けを求めるためにお前の姿に最後になったんじゃないか。奇妙な遺体だが、まぁそこは警察にも俺らみたいなのがいるから対処してるだろ」
「警察にもいるんですか、霊障担当」
「俺も見張られてはいるからな。邪神に憑かれてる長生きの男――不審だろ?」

 ククッと吉住がタバコをふかしながら笑い、己の事務机に足を乗せる。俊介は眉間に皺を寄せ、行儀悪いですね、と嫌味を言ってやれば、育ちが良すぎることで、と嫌味を返されてしまった。

「お前もまぁ監視対象になるだろうから、近いうちにいずれ会うだろうさ」
「俺がですか? 吉住さんみたいに荒神体内に憑けてませんよ」
「人だよお前は、だが神に近づきすぎたせいで視えるもんが多すぎる。特異だぞ? 幽霊も妖も邪神も、神以外は全部見えるなんて」

 俺よりよっぽど特異だ、と笑う吉住に俊介は複雑な気持ちで溜息をつく。確かに、この事務所内では平気なのだが、ビルに来るまでの道中視なくていいものを視すぎて疲れたものだ。この3年で俊介の瞳の中の世界は一変していた。それ程までに自分がおかしくなっていた事に気付けたことは幸いだが。

「それで、俺は死んだ事になったんですよね」
「そうだな、まぁ戸籍ぐらいは何とかなるだろう」
「で、視るものに慣れるまではあなたのもとで働くと。」
「俺がいる限り滅多な悪霊やら変なもんは寄ってこないだろうよ、それこそ産まれたばかりのもんじゃなけりゃな」
「……いいんですかね。今の俺は、母が死んだことを知っても何も思えないぐらいですが」

 ニュースはもう切り替わっているが、テレビ画面を見つめながら俊介は呟く。自由になった先など考えたことはなかった。3年間で失った感情は多い。自分が人と大分違うことも察している。そんな俊介を見て、吉住は肩をすくめ笑う。

「知らん、自由にすりゃいい」

 テレビ画面から目を離し、俊介は吉住を見つめる。吉住のことも知りたい。儀式のことも、今後の目的も。それから、吉住がいう俺たちのことも。自分と似た人たちがいるのなら、自分に何かできるかもしれない。今度は、本当に、一人の人間として。何ができるのか知っていかなければならない。自分がどんな人物なのか、まず知らなければ。やることは沢山ある。

「自由って、忙しいんですねぇ……」

 最初に会った時のような伸びた口調で俊介がぼやくのを聞いて、吉住は穏やかに笑みを浮かべゆっくり目を閉じた。